「キラーストレス」って何?
現代社会で生きる私たちにとって、切っても切れないもの。
それがストレスです。
生きていくだけで、実にさまざまなストレスがかかってきます。
ストレスが体に悪いということはわかっているけれど、それを完全になくすことは難しい…
「ストレスがないわけじゃないけど、そんなに溜まっている気はしないから大丈夫だろう」、そう安易に考えてはいませんか?
ストレスは自分の意識とは関係なく、意外に蓄積しているものです。
その無意識下に溜まったストレスを、うまく発散・コントロールできなければ、知らず知らずのうちに、がん・脳出血・脳梗塞・心筋梗塞・狭心症・うつ病・高血圧・糖尿病など、「命にかかわる事態」を引き起こすことになるのです。
まずは自分のストレスの程度をチェック!
ストレスが溜まっているなぁと思っている人も、そうでもないかなと思っている人も、ウェブ上でチェックしていくだけでストレスの程度がかんたんにわかるストレスチェッカーがありますので、一度やってみてください。
リンク先の一番下にあるシートに、自分がこの一年に経験したことにチェックして「合計を出す」ボタンを押すだけ。
合計点が
260点以上:ストレスが多い要注意の段階
300点以上:病気を引き起こす可能性があるほどストレスが溜まっている可能性がある段階
なのですが、私の点数は538点でした…
みなさんは何点だったでしょうか?
結婚・妊娠・出産や収入の増加など「喜ばしい出来事」さえもストレスの原因になっているというのは意外だったのではないかと思います。
つまり、ストレスとは何かという定義でいえば、
「ストレス」=「変化」であると言えるのです。
ストレスがかかると体で何が起こる?
ストレスとは、私たちがまだ「ヒト」になる前、太古の昔から「猛獣のような天敵に遭遇したときに瞬時に対応できるように」体に備わっている、いわば原始的な生命反応です。
危険を察知したら、心拍数を増やし、血圧を上げ、肝臓から糖を放出し、血糖値を上げる。
瞬時にこのようなストレス反応を起こし、全身にエネルギーを供給することで「闘う」もしくは「逃げる」態勢を整えることができました。
昔は必要不可欠な反応でしたが、現代において、私たちが猛獣のような天敵と相対することはほぼないといっていいでしょう。
しかし、猛獣の代わりにストレス反応を引き起こす、先ほどのストレスチェッカーにあったような、多種多様なストレス源が生まれてきたのです。
ではそのようなストレス源に遭遇した場合、私たちの体内ではどのような反応が起こり、それがどのように体に悪影響を及ぼしていくのか、順に見ていきましょう。
最先端の研究により明らかになってきた現代のストレス反応は、ぞっとするほど恐ろしく、決して軽視できないものだと、あなたも認識を新たにするはずです。
扁桃体は「ストレスの引き金」
不安や恐怖などのストレスを感じると、脳の扁桃体という部分が真っ先に反応します。
扁桃体から「不安や恐怖に対処せよ」という指令が視床下部に届くと、視床下部はさらに間脳に指令を送り、自律神経をやホルモンを介して副腎へと届けられます。
指令を受け取った副腎は、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」「アドレナリン」「ノルアドレナリン」を放出し始めます。
これらのストレスホルモンは血流にのって全身をめぐり、さまざまな臓器に指令を与えることになります。
心臓に伝われば「動悸」「血圧上昇」
血中においては「血小板の結合」(血が固まりやすくなる)
肝臓は「糖を放出」(血糖値の上昇)
一時的なストレスであれば問題ありませんが、ストレスが慢性的にかかる状況にあったり、高血圧や心臓病などもともと持病を抱えている人であったりした場合には、致死的な病を発症させるであろうことは想像に難くないと思います。
ストレスが脳を萎縮させる
慢性的なストレスによって害されるのは脳も同じです。
ストレスホルモンのコルチゾールが増えると、脳の中で記憶や感情、学習にかかわる海馬と呼ばれる部分の神経突起が減少し、やがて海馬全体が萎縮していきます。
「感情のコントロールがうまくいかず、子どもをひどく叱ってしまう」
「心が重たくて会社(家事)を休みたい」
「仕事から帰ってきたら気持ちがふさいでしまう」
こんな経験はありませんか?
それは「心」の問題ではなく「脳」が物理的にむしばまれているサインなのです。
実際、うつ病やPTSDなどの患者の脳は、海馬がCT画像でもはっきりとわかるほど黒く虫食い状に萎縮しています。
これはアルツハイマー型認知症と同じような状態と言えます。
ストレスを悪化させる「マインド・ワンダリング」
慢性的にかかるストレスを何倍にもしてしまうのが「マインド・ワンダリング」と呼ばれる私たちが無意識に行っている行為です。
大きなストレスとなる出来事があった場合、あなたはつい、それを「思い出し」、今後の影響や対応を「想像」してしまいませんか?
それこそが「マインド・ワンダリング」(心の迷走)なのです。
思い出し、想像するたびに、脳はストレスを感じ、ストレスホルモンを発生させます。
それにより、脳は何度も傷つけられ、萎縮していくのです。
ハーバード大学の研究では、この「マインド・ワンダリング」に費やす時間は生活時間実に47%にも及ぶということがわかっています。
人間の、過去から教訓を得て未来に備えることができる、という他の動物より優れた能力が、ストレスという観点から見れば大きな悪循環を生んでしまっているのです。
しかも現代において、「マインド・ワンダリング」をさらに加速させているのがスマホです。
スマホから大量の情報にかんたんに触れることのできる現代、私たちはいろいろな想像力を働かせ、常に思考することになり、脳は休まるときがないのです。
実際、ハイデルベルク大学の研究では、都市に住む人と、村(田舎)に住む人の扁桃体を調べたところ、都市に住む人の扁桃体の方がストレスに反応しやすい、つまりストレスに弱いということがわかっています。
ストレスに強い遺伝子と、弱い遺伝子
世の中には、ストレスに強い人と弱い人がいる、そう感じたことはないでしょうか。
それを医学的に解明している研究があります。
ユタ大学の研究では、NPY(神経ペプチドY)と呼ばれる神経伝達物質が、生まれつき多い体質の人と、少ない体質の人が存在し、それによってストレス対処能力(レジリエンス)が異なるということがわかっています。
NPYが多い人はストレスに強く、NPYが少ない人はストレスに弱いといわれています。
それ以外にも「生まれ育った環境」もストレスに強いか弱いかを左右する重要な要因だということが指摘され始めています。
特に問題になるのが子ども時代の強いストレスです。
「いじめ」や「虐待」などの強いストレスを子ども時代に受けると、扁桃体が肥大化、小さなストレスにも過敏に反応するようになり、ストレスに弱い状態になってしまいます。
さらに驚くべきことに、その影響は何十年にもわたって継続し、大人になってからうつ病を発症したり、自殺を考えたりする傾向が強くなるというのです。
扁桃体以外にも、記憶や感情にかかわる「海馬」や、左脳と右脳をつなぐ「脳梁」、思考や行動を司る「前頭前野」の萎縮、また「脳そのものの容積の減少」など、子ども時代に受けたストレスは、生涯におよび、脳に多大な影響を及ぼし続けるのです。
ストレスが、がんの転移を促進
ストレスがかかると、免疫が落ちて「がん」になりやすくなる。
テレビなどでも盛んにいわれていることですが、そのメカニズムを知っているでしょうか。
がん細胞は私たちの体内で生み出され、増殖しようとしますが、それを抑制するのが免疫細胞です。
免疫細胞が、がん細胞を攻撃・排除することによりその増殖を抑えるのですが、その免疫細胞の中に存在する「ATF3」という遺伝子が、ストレスホルモンの作用を受けると、ストレスを受けて30分以内にがん細胞を攻撃するのをやめてしまうのです。
ストレスホルモンが減れば遺伝子のスイッチが切れ、再び免疫細胞はがん細胞を攻撃するようになるのですが、ストレスホルモンが常に高い状態の人であれば、スイッチはオンになったまま、つまりがん細胞の増殖を食い止めることができないというわけです。
研究では乳がん患者において「ATF3遺伝子」がオフの人(ストレスホルモンが低い)の1年生存率が85%だったのに対し、「ATF3遺伝子」がオンの人(ストレスホルモンが高い)の1年生存率は45%と半分近くも下がってしまうことがわかっています。
そればかりか、ATF3遺伝子がオン(ストレスホルモンが高い)状態にあるときの免疫細胞は、がん細胞を攻撃しないばかりでなく、他の細胞と細胞の間に隙間を作ることにより、がんの転移を促す効果があることまでわかってきました。
つまりストレスが高い人は、がんになりやすいだけでなく、がんが治りにくく、転移しやすいという非常に深刻な結果になっているのです。
国民の2人に1人が、がんになると言われる時代。
ストレスコントロールすることが、いかに大事か、わかってきたのではないでしょうか。
ストレスがきっかけで、血管が破れる
脳出血や大動脈解離など、一度起こると命を落とすことも多い致命的な病。
それらは体内の血管が破れることによって引き起こされます。
もちろん、動脈硬化や高血圧などの要因も複雑に絡み合って起こるのですが、口の中にいる、ある種の口腔内細菌が歯ぐきの血管から体内に侵入、血管の壁に貼りついて塊を作り、血管の組織を溶かし、ついには血管自体を破ってしまうことを知っているでしょうか。
そして、その細菌を活性化するのがやはりストレスホルモンなのです。
さらに、その悪さをする口腔内細菌が歯ぐきから体内に侵入する際にも、ストレスホルモンが関与しているのです。
ストレスが多いと免疫が下がり、歯ぐきから出血しやすくなります。
その出血したところから口腔内細菌が血管内に侵入、さらにストレスによって免疫細胞の働きが低下していると侵入した細菌を攻撃・排除してくれず、細菌が血管の壁にくっつくのを阻止できないため、血管が破壊されるというわけです。
今まで、脳内の小さな脳出血は、血圧コントロールで改善すると考えられてきましたが、血圧を良好にコントロールしている患者さんでも脳の微小出血が止まらず、その原因として新たに注目されているのがストレスによる口腔内細菌の感染なのです。
高齢になってくると、CTやMRI撮影をした際に「特に心配はいらないですが、小さな脳出血のあとがありますね」などと言われる場合も多くあるでしょう。
このようなときには血圧やストレスのコントロールだけではなく、歯科にかかってお口のメンテナンスをすることも重要な対策だといえるでしょう。
ストレスが多いと風邪を引きやすい
免疫が下がると風邪を引きやすくなるというのも、よく言われているところです。
こちらもカーネギーメロン大学での研究で、風邪のウィルスを鼻から摂取したときの風邪の罹患率が、ストレスの少ない人の場合28%程度だったのに対し、ストレスの多い人だと48%程度と倍近く風邪にかかりやすくなることがわかっています。
「最近、風邪を引きやすくなった」
そんな人は、ストレスによって免疫が低下、重大な疾患を引き起こす前触れの可能性があるのです。
他にもストレスによる免疫低下はさまざまな身体症状をもたらします。
じんましん、アレルギー、花粉症
胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍
肺塞栓症 etc
実は、あなたの持っているその病、ストレスがその隠れた原因、または悪化させる要因のひとつになっているかもしれません。
次回は、体をむしばむストレスのコントロール方法についてまとめていきたいと思います。
更にキラーストレスについての詳細を知りたい方は、こちらの本がとてもわかりやすかったのでオススメです。