私は小さな個人経営の会社をやっており、そこで人事も担当しています。
あるとき、20代前半の女性が面接に来ました。
国家資格を持っており、3月に専門学校を卒業した新卒のはずでしたが、面接したのが5月だったので「少し変だな」という印象を受けました。
通常、学校から新卒で面接に来る場合は12~2月くらいが多く、3月末から4月頭から働き始めることが多かったからです。
「どこかにいったん就職してからうまくいかなくて他を探しているのかな」と感じました。
しかし、持参した履歴書には職歴は書かれておらず、卒業後は資格とは別の仕事に就くかどうか悩んでいて働いていなかったとのことでした。
それこそ珍しいケースだと思います。
しかし、結果としてその履歴書は嘘だったということが後で判明するのですが…
雇ってみて感じたこと
彼女を雇ってから、教育係をつけ、教えてもらっていたのですが、なかなか仕事を覚える気配がありません。
教育係いわく、「一度教えたことをすぐ忘れており、再度説明しても、以前説明を受けたことそのものを忘れているため、何度も同じ説明をすることになり大変疲れる」とのこと。
最初のうちは「初めての社会人だからまだ学生気分が抜けないのかも。ちょっと注意しておくから、申し訳ないけどもう少し気長に教えてやってね」とお願いしていました。
本人にも「先輩は忙しい業務の間を縫って教えてくれているのだから、何度も聞かずに済むようにきちんとメモをとって、家で復習して忘れないように」とお話しました。
その後、本人はメモをとるようになり、家でも復習しているというのですが、何度も教えてやっと1つ出来るようになると、前に覚えた1つを忘れるという繰り返しでした。
正直、私を含めた全員が、何度も同じことを教えるということに不安と疲労を感じ始め、教育係ももう教えたくないと訴えるようになりました。
そのころには、この子は普通と少し違う、何か違う方法でアプローチしないと仕事ができるようにならないんじゃないかと思い始めていました。
社会人として初めて勤め始めたその子を、何とか一人前にしてあげたいという気持ちと、教育係や他の従業員の負担を軽くするためには他の人を探すべきか、という気持ちがせめぎ合います。
問題解決には一体どうしたらいいのかネットで調べたり、資料を読んだり、知り合いの相談したりした結果、もしかしてこの子は「発達障害」なんじゃないかと思うようになりました。
その従業員が、発達障害ではないかと思うようになったエピソードがありますので、いくつか列記してみます。
衝動を抑えられない
・お客さんにもらったお菓子(社長宛に頂戴したもの)を勝手に開封する。
・業務中に頂いたお菓子が気になって、業務を勝手に中断して見に来て個数を数え始める(自分は何個貰えるかを数える)
・指示をしている途中で走り出す(最後まで指示を聞かない)
とにかく忘れる
・「〇〇をしておいて」という指示は90%くらいの確率で忘れている。
「〇〇は?やった?」と聞かれても、そこで思い出すことさえなく「何の話ですか?」となる。
・注意されたことを覚えていない.。
注意内容をメモを取りながら聞いているのに覚えておらず、メモを見直してごらんと言って、初めて思い出す。
本人はメモに自分で「忘れないように!」と赤丸をつけているのに、それを追記したことさえ忘れている。
・ドアを開けたら閉め忘れ、水道の蛇口を開けたら閉めるのを忘れる、お店のカギをかけるのを忘れる。
・3カ所電源を消さないといけないスイッチがあり、本人が「消しました」というので確認に行くと案の定1つしか消していない。
「1つしか気にならなかったから」とのこと。
自信過剰(自己認識が甘い)
・ミスをしてもミスと認識しておらず、したがって報告も上げない。
・自分ができていないという認識がないため、ミスを指摘されても自分の非であるとは思わない。
たとえば、ある戸棚から物を持ち出し扉を閉めないまま放置して去っていくのを見つけて
「この扉を開けっぱなしにしないでね」(すでに扉には彼女のために”開けたらしめる!”という紙が貼ってある)と注意すると、「私はその機械に触っていないので違う人だと思います」とのこと。
「じゃあ今、手にもっているものはどこから持ってきたの?」「(憮然として)そこの戸棚ですけど」「それを取るために扉を開けたんじゃないの?」「あ、そうか」(ここまで本当に気づいていない)
耳から内容を認識することが苦手
・電話で相手が何を言っているのか、耳では聞こえるが頭で理解することができず、フリーズし、見かねて周囲が代わる。
(本人にどこの誰からの電話でどういう内容かを確認しても、名前も部署も聞いたけどわからない、内容も聞いたけどわからなかった、とのこと)
・重要な内容なのでメモを取りながら聞いてね、とあらかじめ伝えたうえで説明してもメモが取れず、耳から情報を入れてアウトプットすることが難しい。
書き間違えが多い
・耳からの情報が苦手なら、とコピーした文面を映し書きさせる方法にしたが、1ページにつき10カ所以上の字の間違いがあり、書き写せない。
・お客さんの名前を頻繁に書き間違えるのだが、間違った部分をぐちゃぐちゃに塗りつぶし、その横に名前を書いて平然と渡す(新しい紙に書き直さない)
一度にひとつのことしかできない
・複数のタスクを同時進行ができず、何かをしているときに声をかけると、
フリーズして結果として両方ともできなくなる。
上下、左右の認識が苦手
・「上ってどっちですっけ?」「お茶碗持つ方が左で合ってますか?」などの質問が多い。
空気が読めない
・人が怒るような地雷ワード(化粧がおかしいと言って笑う、字がへたくそだと言って笑うなど)を連発して、相手が怒ってものを投げつけてきたり、絶縁されて無視されるようになっても、どうしてそのようなことをされるのか理解できていない。
・数人が同じ話題で盛り上がっているところに、全く関係ない話題をねじ込んでその話を一方的にしゃべり続ける。
みんなが呆れて喋らなくなっても気づかない。
・皮肉や嫌味をそのまま誉め言葉として受け取る。
怒ったお客さんが「あなた、(中身なくて)顔だけで人生渡ってきたようなもんね」と嫌味を言うと「そんな美人だなんて~」と、褒められたと認識する(相手をさらに逆上させる)
・自分に対する自信が強固で、不当に低い評価や待遇を受けていると感じている(本人はうまくやっているつもり)
忘れ物が多い
・明日は職場でお弁当が支給されるから、お昼は持ってこなくていいからね、と前日伝えておいたにも関わらず、持参しており、支給されたお弁当を食べ終わるまで自分が誤って持参していることに気づかない。
計画を立てられない
・いつまでにこれを仕上げないといけないということは、一日にこれくらいのペースでやらないと間に合わないという計算ができず、計画書をもらってもどうしていいかわからない。
その先を想像することが苦手
・イレギュラーがあってもそれがどういう意味をもつか理解できず、対応できない。
・駐車場に他社の看板が落ちていたことは認識していたが、それを報告または撤去しないといけない(お客さんが車を停められない)という先読みができず、「今日は珍しいものが落ちているなぁと思った」だけで放置していた。
他にも、食べ物の味が混ざると頭が混乱するので、おかずを先にすべて食べてから白米のみを食べるなどの特徴がありました。
みなさんの職場や周りにも、このような人はいませんか?
友達や知人なら適度な距離感を保ったり、楽しい時間だけを共有するように心がけたりなど、対処のしようがありますが、仕事となるとなかなか難しい場合もあります。
接客業などであれば、なおさらで、ずっとそばに付きっきりでフォローするわけにもいきません。
最初はどうして出来ないの、とそのたびに指導していたのですが、これらの特性からみるに、発達障害の疑いが濃厚だと思い、本人にいくつかの簡易の発達障害テストを受けてもらいました。
結果はどれもほぼ満点であり「発達障害の可能性があります。病院に相談してください」と出ました。
やっぱりかぁ、と思いながら「テスト結果も満点だし、日常業務に支障が出ているので、今後どういう風にしたらいいか専門家に相談してみては?不安なら私も一緒についていくよ」と提案してみるも、「私そういうんじゃないんでいいです」と断られてしまいました。
周りは困っていても本人は困っていないのだから、行く必要もないと思うのも頷けます。
一応、ご両親にも昔はどんな子どもだったか聞いてみるのもいいって書いてあるよ、と伝えたところ、聞いてきてくれたのですが
「母親からは、子どものころから他の兄弟とは違う、発達障害じゃないかと思いながら育ててきた」と言われたそうで、本人は衝撃を受けていました。
本来なら、専門家の支持をあおぐべきところなのですが、本人の同意が得られなかったので、自分なりに調べて、本人とも相談しながら手探りで様々な方法を試してみることにしたのでした。
後編はこちら!
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